賀茂泉酒造
広島県東広島市
広島の東にある西条地区は、12月から3月にかけての平均気温が3℃で湿度も低く、水質は中硬水で、良質の米が穫れるため、日本国内で最も酒造りに適した地方の一つとなっています。
賀茂泉酒造を経営する前垣家は、米穀卸商や米農家向けに肥料の販売を手掛けていましたが、近代化の波が押し寄せる1912年、ついに酒造りを開始しました。賀茂泉酒造は1973年に、純米酒の醸造に専念する11社のパイオニアグループの一つとなりました。
当時の酒造りは、搾った酒を活性炭素で濾過して不純物を取り除き、純粋で見た目に理想的な無色の状態にしていました。しかし賀茂泉では、この不純物そのものが酒自体の重要な特質であり、それを完全に除去することは、酒の本質を失うことだと考えました。
日本に数多い蔵元の中でも、賀茂泉酒造ほど個性を重視している所はありません。賀茂泉の特徴であるこくのある豊かな味わいと、口あたりがなめらかで飲み易い淡い黄金色の酒は、卓越した技術を証明するものです。優れた熟成とブレンドにより最終的に市場に出された賀茂泉の銘柄は、肉料理や中国料理との相性もよく、日本酒の世界では珍しい存在です。通にとって甘味、酸味、苦み、うま味を構成するとらえどころのない味の柔軟性あるバランスは、他に比類のないものとなっています。
賀茂泉の酒には明確な特徴があります。代表銘柄『朱泉』はこくと芳醇な味わいの淡い黄金色の酒で、キノコと共に秋の情景を思い出させるいぶしたような深い風味があります。多くのファンを引きつけている賀茂泉の甘味、酸味、苦み、うま味のしなやかなバランスは、酒の世界でもユニークなものです。
賀茂泉の酒は西条で造られています。西条はおいしい水と醸造に適した寒い気候、多くの季節労働者が揃うことから、300年前に日本の三大銘醸地の一つとして発展しました。広島の酒は繊細さと強さを合わせ持つとされ、賀茂泉も例外ではありません。フィリップ・ハーパー氏は著書の中でこう書いています。「骨太のたくましさにもかかわらず、明らかな上品さがある。一体どうやって造っているのだろうか」。
